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酒とバラの日々
酒とバラの日々
著/
藤原万璃子
発行/
二見書房
レーベル/
シャレード文庫
形 式 :
価 格 : 840円(税込)
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解説
水原千秋はフランスの三つ星レストラン「アラン・ヴィレリ」でソムリエを務めていた日仏ハーフ。同店と同じ名を持つオーナーシェフの恋人だったが、天才ゆえの奔放さにつき合いきれず店を辞めてしまった過去を持つ。そんな千秋が思い出の地で出会った遠野隆明は日本にあるフレンチレストランの二代目。なりゆきで隆明の手助けをすることになった千秋は、そのまま彼の店で働くことになるのだが……。ワインのように甘く、蜜のように苦い、芳醇な香りに満ちた大人の恋愛物語。
目次
酒とバラの日々
蜜の味
貴方に今夜はワインをふりかけ
眠りを覚ますボジョレー
あとがき
抄録
我知らず首をふり、立ち上がろうとしたまさにその瞬間――眠っているとばかり思っていた隆明が、不意にぽかりと目を開けた。
はっとして、千秋は思わず息を飲む。まさか思考を見抜かれたわけではないだろうが、こんな状態で見つめあうのはあまりよろしくない。千秋は反射的に、顔を背けて立ち上がろうとする。
けれど、彼はそれを許さなかった。ひと思いに引きよせられ、そのままシーツの上に押し倒される。焦点の定まらぬ瞳が、今にもまつ毛がふれそうなほど間近に迫る。
……何? これはいったいどういうこと? なぜ彼は、こんなことをするんだ? まさか……いや、そんなはずはない。でも、じゃあいったいどうして? どうして彼は、僕にこんなことを……!
全身の血が逆流する。痛いほど鼓動が早くなる。息が苦しい。胸が痛い。身体(からだ)が――身体が動かない。
彼は、何も言わなかった。何も言わずに、ただじっと千秋を見つめていた。とろりと煮つめた漆黒の蜜(みつ)のような、つややかで濃密な瞳が視界いっぱいに広がる。やめて。もう離して。これ以上僕を混乱させないで。
心の中では必死にそう叫んでいるのに、千秋の身体はぴくりとも動かなかった。声ひとつ出せなかった。金縛りにあったように、全身に麻酔をかけられたように、暗い淵のようなふたつの瞳をただただ見つめるばかりだ。
唇に、何かがふれた。
それが彼の唇だとわかるのに、わずかだけれど時間を要した。しっとりと包みこまれて、次の瞬間には甘く熱く探られる。目の前で火花が散った。
そんな……そんなばかな。これはなんだ。何なんだ。どうして彼が、僕にこんなことをするんだ。そして、どうして僕は彼にこんなことを許すんだ。彼は、彼と僕は、こんなことをするような関係じゃないのに。
でも……じゃあなぜ、僕は抗(あらが)わない? いくら明確な体力差があるとはいえ、抗って抗えないことはないはずだ。それなのに、抗うどころか、広い肩に手をまわして、さし入れられた舌に応え、甘い吐息さえもらしている。まるで、恋人のように。
嘘だ。こんなのは嘘だ。現実であるはずがない。でも、甘い胸の痛みも、熱いそこのうずきも、確かに僕は感じている。それらは確かにそこにある。幻では、ない。
“千秋――”
彼が呼ぶ。甘くかすれた、熱に浮かされたような声で。
「……たかあき……」
だから、千秋も彼を呼ぶ。呼んで、熱く口づけする。上下の唇をついばみ、甘く舌をからませ、優しく柔らかく口中を蹂躙(じゅうりん)する。瞼裏(まなうら)に火花が散った。
「んっ……」
思わず、喉が鳴った。なんてキス。腰から下がとろけそうだ。頭の芯がぼうっとしびれて、身体の芯がじんと熱くなる。夢中になって、舌音が響くのもかまわずに、千秋は激しく彼の舌を吸った。
「あ……」
千秋の中で、ゆっくりと官能が目覚める。忘れかけていた感覚が、ゆるゆるとよみがえってやがて全身のすみずみにまでゆき渡ってゆく。
ああ、なんて――なんて甘いキスだろう。まるで蜜のようだ。なんてせつないキスだろう。まるで、ワインのようだ。初めてだ、こんなキス――こんなに心地よくて、こんなに幸せなキス。
「あっ……」
不意に、そこに自分のものでない高ぶりを感じる。同時に、自分がもうそんなに高ぶっていたことにも初めて千秋は気づいた。こんなの初めてだ。キスだけで、こんなふうになってしまうなんて。キスだけで、もうどうにも我慢ができなくなってしまうなんて。それは――それは、僕が彼を……。
*この続きは製品版でお楽しみください。
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