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クレオパトラの夢
クレオパトラの夢
著/
藤原万璃子
画/
鳳麗華
発行/
二見書房
レーベル/
シャレード文庫
シリーズ/
シャルル&ハルキシリーズ
形 式 :
価 格 : 840円(税込)
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著者プロフィール
藤原 万璃子(ふじわら まりこ)
出身地 東京/星座 牡牛座/血液型 O型/趣味 旅行、観劇、音楽鑑賞、読書、ワイン/誕生日 5月11日
シャレード文庫、パレット文庫、アズ・ノベルズ等で作品を発表。
解説
退廃の翳りを秘めた都、ウィーン。例によって、美しくも傲岸不遜な“人でなしの恋人”、某国辣腕諜報部員シャルルの指令を受けてハルキが潜入した先は高級ホストクラブ。そこで彼が警護を依頼されたのは、なんとかつての恋人ジェイだった……。上質なシャンパンの味わいのように甘く胸にしみる連作集。
目次
ヴァン・ヴェール
クレオパトラの夢
ビヨンド・ザ・リーフ
パパラチアン・キス
抄録
闇の中、不意に電話のベルが鳴る。
俺はがば、と跳ね起きてとっさに枕もとに置いたレシーバーに飛びついた。まだ頭が覚醒していない。放っておけば自動的に留守番電話が作動してファクシミリに切り替わるのはわかっているのだが、頭で考えるより先にまず体が動いてしまった。
『……私だ』
受話器の向こうから、いきなりそんな声が響く。俺がもしもしともはいとも言わないうちにだ。
……わたしィ? こんな真夜中に、人の寝入りばなに電話なんかしてきやがって、いったいどちらの私さんだっつーの。いくら俺が温厚な性格だからって、いいかげん――。
「……シャルル?」
ところが、俺の唇は俺の意志を裏切っていち早くそう動いていた。意識が覚醒するより先に、体が反応する。とたんに目がぱっちりと開いて心臓がどきんと高鳴った。
シャルル? シャルル……本当にシャルルなのか? 誰よりも愛しい、愛してやまない俺の人でなしの恋人。
その声を聞くことすら、なんて久しぶりだったろう。いつも死線ぎりぎりの、きわめて危険な仕事をしているおまえだから、ちょっと連絡がとだえただけでも俺は胸がつぶれそうになる。心配で心配で、会いたくて会いたくて、そのたびにどんなにおまえに惚れてるか思い知らされて。
いまだかすみのかかった意識の中で、ただ感情だけが覚醒してものすごい勢いで体じゅうを駆けめぐる。驚きと喜びと困惑と、ありとあらゆる感情がごちゃまぜになって、何から切り出していいかもわからずに俺は混乱する。
『すぐに支度しろ。十五分後に迎えにゆく』
それなのに、何か言いかけた俺の機先を制して、シャルルはたたみかけるようにそう言った。
はあ? む、迎えにくるって……おいおい、いったい今何時なんだよ? ええと、確か……昨日は、遅れに遅らせていたレポートをやっと上げて、それを提出しにいったら教授につかまって、一睡もしないまんま飲みに連れていかれて……不思議なんだよなあ、ああいう時ってなんでかあんまり眠くなんなくってさあ、そのまま夜中まで騒いで……へろへろになって帰ってきて、着替えもそこそこにベッドに倒れこんだのが、うん、確か一時過ぎだった。
ってことは、少なくとも二時より前ということはあるまい。こんな真夜中に、いったい誰をどこへ連れていこうって言うんだ?
『ラフな格好でいい。何か一枚はおれるものを持って。草地を歩くから、楽な靴を履いてこい』
呆けた頭で必死に考えまわしている俺を尻目に、それだけ言って無情にもぷつんと電話は切れる。もう何を問いただす術もない。通話の切れたレシーバーを手にしたままの格好で、俺はひとりベッドの上で呆然とした。
……なんだったんだ、今のは?
一瞬、夢の続きなのかと思う。あまりにも突然で、あまりにも一瞬のことで、思い出そうとすればするほど、ついさっきのことなのにどんどん記憶が遠のいていく。
確かに、あいつの誘いはいつもきわめて唐突で突然だ。むろん誘いと言ったって、口惜しいかな実はデートのそれじゃない。いや、俺にしてみりゃあいつに会えるってだけでじゅうぶんデートに等しいようなところはあるし、どんなに危険が伴ったってあいつに会えるなら俺は喜んでそれへ身を投じるだろう。
むしろ、危険が伴えば伴うだけ、ふたり一緒にそれを乗り越えてゆくことの達成感と満足感は何ものにもかえ難いものがあって……くっそー、自分で言ってて情けなくなってきた。
要するに、俺はあいつに骨抜きなんである。オカ惚れなんである。時々、もしかして俺ってものすごーく男の趣味が悪いのではないかと不安になることもあるのだが、好きなものは好きなんだからしょうがない。こんな男、やめちまった方がきっと幸せなんだろうになあ。なんで俺、あんなのがこんなに好きなんだろう。
とにかく、俺は奴に惚れている。惚れきっている。おつむの出来も仕事ぶりも、美貌も知性も性格の悪さも、すべてが規格はずれのこの男に。
だから俺は、一介の学生の身分であるにもかかわらず、某国情報部特務機関特殊工作員の使いっぱしりなんてさせられても、甘んじて耐え忍んでいるというわけなのだ。
ああ、俺って不幸。あんな男に見初められたばっかりに、あんな男に認められるだけの何かを持っていたばっかりに、こんなヤクザな稼業にひっぱりこまれちまって。あいつにさえ出会わなければ、見こまれなければ、俺は今頃ごくごく普通の学生生活を送っていただろうに。男でも女でもいい、ごく普通の相手と平凡な恋をしてあたりまえの幸せを享受していたはずなのに。それなのに、あんな男と出会ったばっかりに……。
けれど、何よりいちばん始末に負えないのは、俺がその状況を決して嘆いているばかりではないということなのだ。どんなにひどい目にあわされても、時には命の危険にさらされても、それでも俺はあいつを愛することをやめられない。
*この続きは製品版でお楽しみください。
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